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東京高等裁判所 昭和50年(人ナ)5号 決定 1976年3月23日

請求者兼被拘束者 乙山菊子こと 甲野花子

拘束者 前記日精病院院長 徳永純三郎

主文

本件請求を棄却する。

手続費用は請求者の負担とする。

理由

請求者は「被拘束者乙山菊子こと甲野花子を釈放する。」との裁判を求め、その理由として別紙のとおり主張した。

請求者の主張は要するに、被拘束者は、法律上正当な手続によらないで、別記のとおり身体の自由を拘束されているからその救済を求めるというにある。

そこで審按するに、本件記録によれば、被拘束者は、昭和五〇年六月三日肩書の最後の住所地から家出上京し、同年七月九日挙動不審者として、東京都○○警察署に保護されたが、同署は、被拘束者が、警察官職務執行法三条一項一号に該当することが明らかであり、かつ、応急の救護を要すると判断し、拘束者が管理している前記肩書病院に保護し、同条二項に基づき同月一〇日大分県○○市大字○×××番の×に在住した被拘束者の長兄甲野一郎らに右事実を通知してその引取方につき必要な手配をしたところ、被拘束者の次兄が迎えに上京する旨の返答があったものの、後それができなくなったので、長兄から電話による同意をえて前記病院の医師が診断したこと、その結果被拘束者は、精神分裂病による幻覚妄想状態で入院加療の必要があるとされたので昭和五〇年七月一〇日付書面による前掲甲野一郎の同意をえたうえで、拘束者は、被拘束者に対し、精神衛生法三三条による同意入院の措置を執ったこと、被拘束者の病状は入院当初幻覚妄想状態が強く現れ閉鎖病棟で治療したが、最近はかなり安定を見せているものの、なお、前記症状は消失せず、特に病識が欠けているので責任ある引取手がない場合は、退院後通院服薬等をしなくなることにより病勢が再度悪化する虞が多分にあること、被拘束者には精神衛生法二〇条二項の一ないし三号に該当する保護義務者がなかったので、拘束者は、その間、長兄甲野一郎らに対し保護義務者の選任手続を早急に執るように申し向けておいたところ、右一郎は、その後所在不明となり、次兄は死亡するに至ったこと、そこで拘束者は、被拘束者が入院前現在した場所を管轄し、同人の入院費用等を負担している港区の長である東京都○○区長Aの書面による同意をえて、被拘束者の入院加療を継続していること及び拘束者としては、被拘束者を引き取って服薬その他療養の指導をしうる引取先があれば、退院させることもできるが、被拘束者には現在その意思と能力を有すると認めうる者がないため止むなく退院させられない、状態であることを認定することができる。

右認定の事実によれば、被拘束者の主張する拘束は、権限なしになされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著であるということをえず、他にこれを認めるに足りる資料もなく、本件請求は理由のないことが明白であるから人身保護法一一条の規定により審問を経ないで棄却することとし、手続費用につき同法一七条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 兼子徹夫 太田豊)

<以下省略>

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